商品開発

商品開発の目標とは一体、何なのでしょうか。 「売れる商品を作ること」 そのとおりです。 しかし、商品開発の現場で、もっと正確に言えば、「『売れるとあらかじめ分かっている』商品を作ること」です。この違いは何か。
 
自分たちが作っている商品は売れるかどうかなんて、100%分かっている訳ではありません。最後は市場に出してみないと分からない。 メーカーの商品開発部で数10銘柄の新製品を手がけた経験からの、私の本音です。
 
 
 
新製品が実際に店頭に並ぶ直前は地獄です。 頭の中は反省や後悔で一杯でした。 「あの時の、デザインの判断はあれで良かったのだろうか」 「味は、もうちょっとはっきりさせた方が良かったのではないか」 「広告のあのシーンは、あれで良かったのか。代理店の提案の方が効果的だったのではないか。いや、私の判断が正しいのだ」 結婚式直前まで迷ってしまう「マリッジブルー」の花嫁のように(そんなかわいいものではないですが (笑))、ギリギリまで悩むのが商品開発というものです。 「血のションベンが出て一人前」 などと、乱暴な言葉がその大企業では言われていましたが、本当に真っ赤な尿が出てきた時はびっくりしました。
が、何となく「ああ、俺も一人前かぁ」とつぶいた自分がおかしかったのを覚えています。
 
 
それでも、支社や営業所に堂々と胸を張って「この商品は、これだけ売れます。だから、きっちりと商談して下さい」と檄を飛ばすことができたのは、私がはったりをかますのがうまいからではありません。
 
 
新製品発売までの過程で、様々なデータがそう語ってくれていたからです。自分が手がけた新製品の実績が予想どおりだった過去があったからです。 正直いえば、いくつかに1つは予想を大きく外れました。
 
 
予想より売れなかった場合は、倉庫に山と積まれた現物を目の当たりにして、真っ青になった経験があります。 予想より売れたら喜べるかというと、とんでもありません。
 
 
工場への緊急増産指示、営業マンからの苦情対応、各種欠品対策、そして、品物がないときの生活者の反応の変化への恐れ(要するに、欲しい時に商品がないと、その後、増産しても存在を忘れて買ってくれなくなる)。
真っ正直にいえば、売れ残りよりも売れすぎの方が心臓に悪いのです。「嬉しい悲鳴」は端から見た方々の言葉です。「身を削るような思いや恐怖と闘う時の悲鳴」が本音中の本音です。 売れ残りと売れすぎ。そのどちらもイヤです。
 
 
でも、最後の最後は出してみないと分からない。 だからこそ、開発途中での正確な売れの把握が必要なのです。 「売れる商品を作る」 のではなく 「売れるとあらかじめわかっている商品を作る」 のは、そういう意味です。 これは、別な言い方をすれば、勝つかどうかが分からないケンカをするか、勝つケンカしかしないかの違いで す。 勝てないケンカを延々とやっていると、
 
●社員の志気に関わります。志気が下がると勝てるケンカも勝てなくなる企業体質になってしまいます。
 
●スーパーや販売店から相手にされなくなります。これも勝てるケンカも勝てなくなる要因のひとつです。
 
●生活者から期待されなくなります。「ここの会社の商品はまたぞろ、しょうもないものしか出さないんだろうな」と思われます。
 
人間に例えてください。「どうせ、こいつ(同僚や部下社員)は大したことをしないだろう」と思われてしまうと、せっかく良いことを言っても信用されなくなるのと同じなのです。 私は、商品開発の様々な準備を、お祭りの射的になぞらえることが多くあります。
 
素人さんはピストルのように短銃で、カウンターに直立して的を狙います。 しかし、私たちのようなプロは銃身の長いライフルを使い、かつ、カウンターから身を乗り出して、的を狙うのです。 もちろん、ライフルを使ったからといって、百発百中とは限りません。
 
しかも、ピストルのプロならばセミプロのライフルよりも的に当たる確率は高いかも知れません。 しかし、腕が同じなら、ピストルとライフルのどちらが的に当たりやすいかは一目瞭然です。 「確実にヒットすること」は、ライフルを使って身を乗り出すことです。 しかし、ヒット商品に恵まれない企業は、ライフルの存在を知らず、一生懸命、ピストルで撃とうとしている。 それだけの違いです。
 
具体的にそのライフルとは何なのか。 それが、マーケティング理論や調査手法、そして最後の砦、担当者の熱意なのです。